全人的医療が求められる在宅医療

全人的医療が求められる在宅医療

小笠原おがさわら 尚之なおゆき 高輪往診クリニック 院長

 あさからざる尊いご縁により、東京・高輪正源寺を拠点に在宅医療を提供する高輪往診クリニック院長として、僧侶・医師の二刀流を実践しております。正源寺の第14代住職を務める次兄の小笠原正仁の支援により、2025年5月に同寺庫裏を拠点に高輪往診クリニックを開業しました。
 西本願寺医師の会には、本山の宗務員である長兄の勧め、また医療と仏教の協働を掲げる本会の理念に共感し入会に至りました。
 私は島根県石見大田にある西楽寺(第17代住職、小笠原一道)の三男として生を受けました。幼少期に交通事故で植物状態となった祖父の在宅介護の経験、在宅医療に従事する開業医との出会い、両親の支援など、さまざまなご縁に導かれ、医学の道を志しました。医学部在学中に得度をして僧籍を取得。医学部卒業後は泌尿器科を専門として大学病院で臨床、研究と高度医療に従事しました。大学病院退職後は、在宅医療に従事するご縁をいただきました。そして昨年、高輪往診クリニックを開業しました。
 仏教は「縁」、全ての存在は無数の因縁によって相互に関係していること、また「心身一如」、心と身体は不可分ということを説きますが、これは在宅医療にも通底する考えです。単に専門領域に特化した医療技術の高さのみでは不十分で、全人的医療が求められ、家族をはじめとする多種多様な方々とのご縁で成り立ちます。
 しかし残念ながら、一般的に患者さんが亡くなられた後は、医師と患者さん本人、ご家族とのご縁はプツリと切れてしまいます。有縁の方々からすると、患者さんの死後も人生は続き、愛おしい人のいない現実を生きていかねばなりません。こうした空白を西洋医学や在宅医療だけで埋めていくのは難しいことです。人間の生老病死、死後の問題を一連の流れとして捉え、「心の依りどころ」として故人とそのご家族、有縁の方々と関わり続ける。そこに僧医(医師×僧侶)である私の役割があると思慮いたします。
 実際、私が在宅医療を行って亡くなられた患者さんの葬儀、法事というありがたいご縁をいただきました。ご家族より「先生にお任せして、とても安心しました。本当に不思議なご縁ですね」と安堵の声をいただき、医師と僧侶の二刀流を実践する上で、大きな励みとなりました。
 今後も会員同士の交流を通じて、医療と仏教の協働の道を模索し、本会の発展に寄与すべく精進する覚悟です。

大乗2026年4月号掲載