認知症の特効薬なのでしょうか?/お悩みQ&A

認知症の特効薬なのでしょうか?

認知症治療薬「アデュカヌマブ」が開発されたとニュースで見たのですが、これは認知症の特効薬なのでしょうか。これまでの認知症薬と違うのでしょうか。

(55歳男性)

新治療薬の効果は限定的で実際の使用には議論が必要

瀧本たきもと ゆたか〔愛仁会尼崎だいもつ病院(兵庫県)総合診療科 副院長〕

 2021年6月、認知症の新治療薬「アデュカヌマブ」がアメリカで承認され、アルツハイマー型認知症の画期的な治療薬になると期待されています。この薬はこれまでの進行を遅らせる薬と違い、アルツハイマー型認知症の原因とされる物質に直接作用します。

 アルツハイマー型認知症は、「アミロイドβベータ」というタンパク質が脳にまることで発症すると考えられています。このアミロイドβが溜まり、放っておくと脳そのものを破壊する「タウ」というタンパクが発生します。このタウが脳の記憶をつかさどる「海馬かいば」に蓄積すると、認知症が進行するとされています。

 アデュカヌマブはアミロイドβを除去する働きがあるため、認知症の根本的治療薬と言われていますが、すでにタウによって海馬がこわれた状態で投与しても認知症は改善しません。つまり、タウが発生する前に投与するのが望ましく、脳がすでに萎縮いしゅくし認知症が進んでしまった方は残念ながら治療の対象になりません。

 また、懸念が3つあります。1つは、タウ発生前の脳の状態を見極める診断技術が、現在でも非常に難しいことです。2つ目は、副作用(脳出血など)の可能性があること、3つ目は費用が高価なことです。

 以上のように、この薬の効果は限定的であり、まだ手放しでは喜べないと思います。そして、実際の使用に当たっては、これからも研究者の間で議論が続くことが予想されます。

『本願寺新報』2021年8月10日号掲載